二位ガン 呟く|ω・*)

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割れた心、切れた思い IV

 好き、だから好き。 

 

思いは秘めた。

だって壊れたくない。壊れてほしくない。

 

怖いの?臆病になってる?

見なければ良かった。聞かなければ良かった。

 

なんで人は人に惹かれるのだろう。

 

猫も同じだろうか、それならば私は可愛がられる対象で良かった。

 

それが続くのならば…

 

 

 

awakening

 

 「お母さん、早く早く!!」

長男の光喜が病院のベッドでカナを呼ぶ、ゲームの相手になって欲しいようだ。

 

「分かったからちょっと待って、ねっ」

「やだっ!お母さんとしたいんだ!」

 

少しでも好きなことをさせてやりたい、こんな幼い子供が何故ガンにならなければならないのか。

 

(変われるものなら変わってあげたい、)

 

 決して甘やかしてきたわけでは無い。

自分がそうであったように、光喜にもある程度の我慢と躾はしてきた。

でもガンが発覚し、そんなことはどうでもよくなった。

 

 抗がん剤治療にも耐え、頭髪はなくなり、顔は痩せこけている。

それでも一生懸命生きようとしている。

 

(私も一緒に頑張ろう)

 

カナはこの時生活の殆どを光喜に費やしていた。

次男も見てあげたいのだが、光喜は母親といたがる。

子供の大半はそうであろう。

 

(あれ、でも光喜は…確か) 

 

「ねえ、お母さん!ゲームするって約束したじゃん!」

「う、うん分かった」

 

これはなに?夢?… あぁ、光喜といれるならいいか。

 

あの時、ずっと一緒にいられると思っていた、絶対死なせないと心に誓った。

でも死なせてしまった。

 

あの光喜が今、目の前にいる。

 

「もう絶対離さないからね、お母さんも一緒だから!」

 

「んーん、ダメだよ。おかあさんはちがうとこだもん」

 

 

「…え、ちゃ…ん  !ねえ… ゃん!」

「ハッ、」

目を覚ますとカナは手を天に向けていた。

 

「お姉ちゃん!こんなところで死ぬな!!」

「えっ、リナ?私どうして、なんでここに」

 

 そこは病院の救急病棟、カナが風呂場で倒れ、見つけたリナが救急搬送を手配したのだ。

幸いというか、向こうの家族には知られていなかった。

母と父には直ぐに連絡し、落ち着いたら連絡すると伝えた。

 

「ごめんね、リナも忙しいのに、やっぱり言う事聞いてちゃんと食べればよかったね」

「何言ってんの!お姉ちゃん、そんなのが原因じゃないでしょ、あいつらが毎日責めてたんじゃないの?光喜死んでからずっと心配してたんだよ!」

 

「カナちゃん、だいじょうぶ?」

リナの娘の藍だ、まだ5歳なので一緒に連れてきていた。

 

「大丈夫だよ、藍ごめんね、お母さん疲れさせちゃったね」

そういうとカナは藍を抱き寄せた。

 

(なんだかあったかい)

 

「カナちゃんいい子、いい子ねっ」

「ふふ、ありがとう藍、藍もいい子だよ」

 

 そういえば次男の成哉の前で作り笑顔をしていること以外、笑った覚えがない。

闘病期間は実に二年、最初は一年持つかとどうかと言われたが、ガンセンターで出会った友人を通じ、食べる物、生活習慣に気を配り、遂に叶わなかったがカナは母として出来るだけの事を息子にしてやれただろう。

 

 だが、その反面姑からは《家の事を何もしない、次男をほったらかし、夫に対して何をしてきたんだ》と一方的に罵られてきた。

それでもカナは耐えた。

 

全ては息子の為に。

 

「いいの、私帰るわ」

「何言ってんの?!お姉ちゃん自分がおかしくなってるの分からないの!?」

 

「だって後どうしたらいいか分かんないんだよ… 成哉に会いたいし、もう、もうどうしたらいか」

泣き崩れるカナをリナはそっと抱きしめる。

 

(もう絶対お姉ちゃんをこんな目に合わせない、でも一体どうしたら…)

 

「もう藍のじいちゃんとばあちゃんがお迎えに来るからいっちゃだめだよ!」

 「えっ?お父さんが?」

 

「そう、娘の事放っておけないって、お母さんもかなりキレてたし」

 

話を聞くに、父は長男の光喜が亡くなってからずっとカナを気にかけていたらしい、粗暴なあの父がだ。

 

だが、娘が決めたことに水は差すまいと抑えていた。

流石に今回ばかりは父の導火線に火をつけてしまったようだ。

 

何か、話声が近づいてくる。

「抑えて下さいよ」

「うるせぇ」

 

遠くから揉める声が聞こえる。

 

コンコン!

「入るよ、どうリナ?」

 

両親がやってきた。カナはもう父に怒鳴られても仕方ないと思っていた、が、父は足早に迫ってくるなりカナを抱きしめた。

 

「ばっ、バカ野郎!なんでこんなになるまで我慢したんだ!」

「カナ、お父さんあんたの事心配で、ここんとこご飯もろくに食べなかったのよ、うちらね、話し合ったんだけどあんたの事、うちに連れ帰るからね」

 

「えっ、でも成哉は?」

「先ずはあんたの体でしょう、こんなんじゃ死んでしまうよ、親として娘をこれ以上つらい目に合わせるわけにはいかないからね」

 

「そうだ、カナ、成哉はいずれ俺が取り返してやる、だから帰るぞ」

 

私はこんなに両親に思われていたんだ…

嫁ぎ先に乗り込んだのも、怒りで灰皿で殴り掛かったのも、娘を思った末の不器用な父の愛情表現だった。

 

 「うん、帰るよ」

 

父がいることにこんなに安心感を得たことがあっただろうか。

 

hostage

  あれから数日が立った、カナの父は先手を打って嫁ぎ先(小俣家)に、「今回の事で娘を責める様なことがあれば裁判沙汰にする」と脅しに行っていた。

 

そのおかげで家の家事を手伝いながら、穏やかな日々を送っている。

少しづつだがシュウとメールのやり取りもあって、心に張りが出てきていた。

 

「シュウ君おはよう」

「おはようございます!リカさん元気 出てきました?」

 

未だ名前を教えていなかった、というかタイミングを逃してしまっていた。

 

「元気だよ!シュウ君は?」

「元気ですよ!ちょっと仕事が忙しいけど」

 

「体に気を付けてね!なんかシュウ君頑張り屋さんぽいから無理しそう」

「それ言われます、でもリカさんとメールしているとやる気出ますよ!」

 

またチクリ…

このまま黙っているのも気が引ける。

 

「わたし、シュウ君に話してなかったことあったから夜に時間あったらまたメールしていい?」

「はい?OKです!悩み事あったらいつでも言ってください!」

 

 何故か胸の奥が苦しい感じがする。

夜になるのが少し怖い…

 

 落ち着いたからと言って次男成哉の事を忘れたわけでは無かった。

何度か見に行こうと思ってはみたが、あの姑に合うかと思うと足がすくんだ。

 

(あの家族におかしなこと吹き込まれなきゃいいんだけど)

 

午後、カナは母とお昼を作っていた。

 

「カナ、あんた料理上手になったよね~」

「そう?こんなの誰でも作れるじゃん」

 

「そうでもないよ、リナなんか面倒くさがって冷凍ものばかり藍に食べさせてたらしくてね、こないだ𠮟ったんだよ。やっぱり姑いるとじゃ違うのかね、あっゴメン」

 

母はマズいと察した様だ。

 

「ごめんよ、カナはつらい思いしたんだからね」

「ううん、いいよ気を使わなくて、確かに躾けられたからね。だから料理もまともに出来るようになったのかな」

 

「カナ、それは違うよ!躾と嫌がらせは違う、うちは私が嫁に来てからお婆ちゃんはキツイ事いう人だった。けど私のしていることはちゃんと見てくれていたよ!だからあんたたちの面倒も一緒に見てくれたんさ」

 

「なんかお婆ちゃんとの話なんて初めて聞いたかも、もっと聞かせて」

 

母はあまり自分の事は話さない人だった、だからカナにとってはとても新鮮であり、何故か感動した。

母と祖母の間に何があったか、見えない絆で結ばれていたこと。

だからこそ母は祖母の葬儀であれだけ泣いたのだという事をやっと理解した…

 

 夜になり、父、母と夕飯を食べようとしたところ、何故かリナが藍を連れてやってきた。

「お姉ちゃんいる~?」

「カナちゃ~ん、あーそーぼっ」

 

母がそそくさと玄関に向かう。

 

「あんた、来るならくるって先に言いなよ!ご飯用意してなかったじゃないか」

「ごめーん、旦那職場の先輩と飲みに行くんだっていうからさー」

 

リナの夫は回転すし屋で職人をしており、帰りに飲みに行くことが頻繁なようだ。

 

「あら~藍いらっしゃい!早く上がって、じいちゃん待ってるよ」

「うん!じいちゃんとカナちゃんと遊ぶの!!」

 

「私旦那のとこで寿司買って来たからさー、お姉ちゃん飲もうよ!」

「えっ帰りどうするの?」

「泊まる!あいつしょっちゅう飲んでくるからたまにいい薬でしょ!」

「パパおくすりのみにいったの?」

 

「ハッハッハ、藍早くおいで~」

 父があんな猫なで声を出すところは初めて見た。

 

思えば光喜、成哉は殆ど実家に連れて帰れなかった。

帰らせてくれなかったからだ。

 

帰った時と言えば子供が生まれた時の里帰り2週間くらいだろうか。

 

「行くならあんた1人でいきな、その代わり二度と帰ってくるんじゃないよ」

 

何があったらあそこまで酷い事が言えるのか、たまに孫を見せに行く事も許さない。

カナは姑に聞けなかった、聞こうが言おうが否定しかされないからだ。

 

あれもマインドコントロールの一種なのかもしれない、あそこに居たら成哉は。

不安がカナの心を絞め付けてくる。

 

「カナちゃーんどうしたの?いっしょにご飯たべよ?」

「そうね、いこうね」

 

瞳を潤ませながら、子供に心配させまいとカナは気丈に振る舞う。

 

藍は父の胡坐の上にチョコンと座り、自慢げに笑っている。

 

「あのねぇ、じいちゃんて凄いんだよ!いっしょにお出かけするとみんな手を振ってくれるの!!みんなじいちゃんのことだいすきなんだよ!」

「バ、バカ、なにいってんでぇ」

 

藍の前ではあの父もタジタジだ。

 

ふとリナが口を開いた。

「あのさ、お姉ちゃんの事でお父さんかなり動いてくれてるんだよ、成哉の事で」

「えっ!?どういう事?」

 

「まだいうのはえぇだろ、ったく。あのな、ちょっと弁護士に相談してんだわ」

「何のために?」

 

「成哉をうちに連れてくるために決まってんだろ!」

 [… ありがとうお父さん」

 

素直に嬉しかった。

でもあの親子、いや姑が素直に応じるはずがない。

 

「一番は話し合いでお互い解決かもしれねーがな、それが出来ねーからこれから策を講じてみるんだよ」

 

そういうと母が、

「お父さんがこんな計画的なことするなんてね」と嬉しそうな顔で話した。

 

数時間して。

(…あっシュウ君にメールしなくちゃ)

 

気持ちの余裕が少し出来たのか、カナは夕飯もそこそこに席を外した。

 

携帯を開くと既にシュウからメールが来ていた。

「仕事終わりました!特に返事返せなくても昼間メールしてくれて構いませんからね!」

 

「シュウ君、実はね言ってなかったことがあるんです。怒らないで欲しいんだけど、私、本当はカナって言います」

「それにもう一つ、言って無かったんだけど実は既婚者です、誰かと話したくてサイトに登録してました。まさかシュウ君みたいな優しい人が返事くれると思っていませんでした、多分これ見たら怒るよね。ごめんなさい、嫌ならもうアドレス消してください」

 

立て続けに送った後深いため息をつく。

 

(シュウ君はどう思うだろう、私は何を期待してるんだろう)

 

一時間ほどした頃、携帯のランプが光る。

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