二位ガン 呟く|ω・*)

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割れた心、切れた思いⅤ

 

これが【恋】というものなのかもしれない。

 

あの人とは、違う。何かが湧き上がってくる。

 

この衝動、抑えが利かない。

駄目だ、あの場所に帰らないと、もう帰らなくていい。

 

そこには全てがある。

 

戻ればあの欠片はもう集められない。

 

きっと。

 

 

truth

  カナからのメールにシュウは戸惑っていた。

 

(… 偽名は、あるとしても既婚者だったなんて。でもなんでモヤモヤするんだろう)

 

既読してから実に数時間、シュウは返事を返すことも忘れ、シャワーを浴び、食事を取った。

 

 メールをする様になり、早数週間、大した事が無くてもメールをし合っていた。

シュウにとってもカナとのやり取りは生活の張りになっていたのかもしれない。

 

(あぁ、…返事しなくちゃ、、、でも何を返すんだ?相手は既婚者だし)

 

「それにもう一つ、言って無かったんだけど実は既婚者です、誰かと話したくてサイトに登録してました。まさかシュウ君みたいな優しい人が返事くれると思っていませんでした、多分これ見たら怒るよね。ごめんなさい、嫌ならもうアドレス消してください」

 

 怒ってはいない、だが今までのやり取りが無くなってしまう寂しさに耐えられるのだろうか。

シュウの心が弱くなっていることに、本人はまだ気づいていなかった。

 

「カナさんて言うんですね、僕は本名です。何かあって登録したんですか? 何と言ったらいいのか分からなくて、こんな時間まで返事返せずにいました」

 

 立て続けにメールを送る。

 

 「僕は先月彼女と別れました、というよりフラれたようなものです。今までこの話はしませんでしたね、自分にとってとても大事な人でした。でも一人にしてしまう時間が多くなり、彼女を追いこんでしまったんだと思います。サイトに登録し、カナさんとやり取りするようになったのも癒しを求めての事です」

 

 送信後、シュウは疲れ切った表情でウイスキーを飲んでいた。

あまり晩酌はしないのだが、この時ばかりは気を紛らわしたかった。

 

深夜一時を回り、そろそろ寝ようとした時だ。

 

「メール…カナさん、か?」

 

「返事くれてありがとう、正直もう返事来ないものと思っていました。ごめんね。」

「私、嫁ぎ先の家族と上手く出来ていないんです、だから誰かと話したかったの。でも最初はなんか怖くて… シュウ君のメールを見た時に『この人は違う』と思い直感で返事しました、騙していて本当に申し訳ありませんでした」

 

 結婚の経験がないシュウにとってはカナがどんな苦しみを感じてきたのか想像も出来なかった。

 

 「今はどうしているんです?嫁ぎ先に帰ったんですか?質問ばかりですいません、僕の正直な気持ちを言います。カナさんとのやり取りは生活の張りになっています。だから心配になるんです」

 

 「この間、連絡とってなかった時に衝動的に家を出てしまいました。その後妹に保護されて今は実家にいるよ。ご心配おかけしました」

 

 人が衝動的になることも、シュウにとっては経験が無かったように思えた。

彼女とのことがあった時は家で泣いた。自分と比べてもカナがどのくらい心を引き裂かれたのか、カナの存在を自分がどうしてもあげられない自分が情けなくなった。

 

 「カナさん、良くはないと承知の上で言います。僕で良かったら愚痴でも悩みでも何でも聞きます。だから今のままメールを続けませんか?」

 

 「ありがとう、シュウ君には彼女作って欲しいから、もしいい人が出来たらこんなやり取り止めていいからね」

 

(そんな事言わないで欲しい…) 

カナの言葉にシュウは何とも言えない感情になっていた。

 

beginning

 カナは先日のやり取りの後、シュウとのメールの関係は止めないことにした。

 現実を忘れたわけでは無いが、やはり心が躍るような感情が湧き上がってくる。

 

(シュウ君はどこの人なんだろう?)

 

 シュウの事をもっと知りたい、カナは夫しか付き合ったことが無かったので、こんな感情になった経験が無い。

 

(なんでこんなに気になるんだろう?どんな顔してるんだろう)

 

 実家の事務処理をしながら夫以外の男性の事を考えている。

不思議と罪悪感はなかった。そのくらいカナの夫は「男」として見ていられなかった。

家事も出来ない、母親に未だにお小遣いをもらうような甘えん坊、付き合っている時から、男らしさもなければ思いやりなど皆無な男だったからだ。

 

 惰性での結婚だった。

しかも子供を二人も身籠り育てた、そこに夫への愛情は微塵もない。

無理やり押さえつけて行為をする様な男に、愛など感じるわけもなかった。

 

  だからこそであろう、シュウの様な思いやりのある男性と、メールとはいえ毎日のやり取りの中で『労い』や『心配』といった、感情がこもった言葉が返ってくる状況に心動かないはずもなかった。

 

(今度声を聞いてみたいな)

 

 カナにとってはシュウとのやり取りの全てが新鮮だった。

 

そんなことを考えていた時だった。

 

「ごめん下さい」

 

事務所の玄関先から聞き覚えのある男の声が聞こえた。

 

(あの声、 まさか)

 

カナの動機が激しくなる。

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