釘が大好き
うちのじいちゃんは何処にでも釘を打つ。
まだ婆ちゃんが元気な頃、棚だらけで家の中が暗くなった時期があった。流石に婆ちゃんも「釘だらけでおっかねーわ!」と怒る時もなんどとなくあり。
だから私は奮起した。
棚と釘の全撤廃をしよう!
とりあえず先にじいちゃんの説得が必要だ。何故なら理由も告げずに始めると反発しているのか以前より凄いことを始めるのだ。
DIYと言えば聞こえはいい、だがじいちゃんのそれは釘で板をガンガン打ち付け、足りないところには針金をネジネジして無理やり棚にしたりするので見た目かなり格好が悪い。
しかも無駄に長く広く作るので掃除が大変なのだ。
以前車庫の棚を外した時にはツバメらしきミイラが私のところにススーっと滑り落ちてきて「いやーっっ!!」と叫んだものだ。
「じいちゃん、悪いけど棚をみんな外すよ!」
「なんでかー?棚あればいいにっか!」(いいじゃん)
「何に使うために作ったん?」
「何かに使うがなー」
(やっぱり・・・理由ないんだ)
「あのね、棚がありすぎて婆ちゃんや俺も顔に当たりそうだし、光が差し込まなすぎて暗いんだよ。」
「んだがー。しょうがねーのぉ」
(あれ?意外と素直だな)
多分私の言い方もあったのだろう。若い頃はとにかく反発心を煽るような言い方しかしなかったので口論になる事もよくあった。
でもこの時は本心を柔らかく言ったのと、じいちゃんも歳をとったことで少し柔らかくなったのかもしれない。
(このあと、曾孫が産まれるとパワーアップするなど思いもしなかった)
「今度何か作る時は直接柱や家に釘打たないで、相談してね!」
「わがったわがった!」
多分分かってないがまぁいいや、と思いながら作業を始めることにした。
先ずはじいちゃんの部屋だ、窓が一つなのに窓を囲うように板を打ち付けてあるので障子を閉めていると本当に暗い。
道具はバールと釘抜が付いたハンマー、それにペンチだ。
私は会社業務ではネジを主に使うので釘の経験はあまりない、それに昔じいちゃんの手伝いをしたらうまく打てなかったことがあり、やたらと馬鹿にしてくるのでそれ以来やった事が無かった。
ガンガン!ガンガン!
中々釘が抜けない、「だから釘は嫌いなんだ」
木ネジと違い、釘は抜けば再利用もほぼ出来ないし、木を割って入っていくのでダメージがでかい。
木ネジは下穴をあけて真っすぐに締めれば抜いて再利用も出来るし、何よりネジの部分でお互いをしっかりと締結できるのだ。
10本も抜くとコツがわかってきた。
やはりバールは重要だ、釘の頭にどうにかバール、若しくは先端が細くて硬いものをかましててこの原理で少しだけ引っ張る。
その後にバールを滑り込ませ、これまたテコの原理で抜き取るのだ。
30本ほど抜いただろうか、じいちゃんの部屋の棚は全て取り除いた。
するとどうだろう、窓からの光が部屋全体に差し込んでとても開放的な気持ちになる。
渡辺篤史の建物探訪みたいなセリフだが、実際棚が人の気持ちまで暗くさせていたんだろうと思わせた。
続く。