二位ガン 呟く|ω・*)

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三番目の男 13

妄想家

 うちのじいちゃんは妄想だけで生きていけるんじゃないか、と思うくらい思い込みが激しい。

 

 あれは私が小学5年生の夏だ、家の中で私は宿題もそこそこに、ごろ寝して漫画を読んでいた。

 

「おい!タケシ!ちょっと来い!!」

「なにぃ~?」

 

じいちゃんに呼ばれるとろくなことがない、大抵何かの仕事をさせるのだ。

 

「そこの道具持ってこっち来い」

「こんなのどうすんの?何やるの?」

 

「いいから黙って来いってんだろ!イチイチ聞いてるとロクな大人にならねぞ!」

(お前が原因だろう)

 

「は~い」

 

最後にはドスを効かせて私にいう事をきかそうとする。

 

 私が「いつまでやるの?何やるの?」としつこく聞くようになったのはじいちゃんが原因である。

 

『仕事を手伝わせる』のではなく、丸投げして何処かへ行くのだ。

若しくはトラクターの乗ってトコトコ耕している。

 

楽がしたいのは見え見えだった。

 

「これなんて言う道具なん?」

「ツルハシだ、これでここを掘れ」

 

敷地内の車庫前を掘れというのだ、ここ掘れワン、じゃあるまいし。

 

「えっ!?ここコンクリじゃん!無理だよー」

「いいっけやれでば!グダグダいうなっ」

 

 若いころのじいちゃんは、そりゃ~身勝手で人を馬車馬のように使う人だったから誰も一緒にやりたがらなった。

 

 だが、私は逃げ場がない。

婆ちゃんに言いつけようかと思うものの、「そんなことも出来ねやんか?」と馬鹿にさえるのに腹が立つのでやることにした。

 

「ツルハシって重いんだけど、どうやってコンクリ壊すの?」

「振りおろしてたたきつけらんだてー!」

 

イチイチ腹が立つ、高校生くらいだったらこのツルハシで殴っていたかもしれない。

 

「こんなとこ掘って何するんだか教えてよ!」

「ここ掘れば井戸が出るんだて!」

 

(はぁ?嘘だろ~、絶対出ねーよ)

悔しいが強要され、やることになった。

 

… … 一時間経過

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、もう休ませて」

 

 振り返ると彼はいない。

(目の届く範囲にはいない、じゃあ休もう)

 

そうして家に戻ると婆ちゃんとババチャが心配そうに駆けつけてきた。

 

「タケシ!?おめ、何やらされてたんだ!」

「またジッコに仕事おっつけられたんだか?」

 

ジッコとはジジイという意味で、怒りを込めて言っていたようだ。

「あんなとこ行かなくていい!うちで休んでいれ!」

「うん、でも戻ってきたらまたおこられるんじゃねーか?」

 

「バットで殴りつけてやろか」

「いいよ、婆ちゃん捕まるじゃん、どうせ諦めるまでやらされるんだから」

 

「なにやってたんだ?」

「なんかあそこ掘ると井戸が出るんだって言うんさ」

 

「あんなとこ出ねろ~!?どこまで馬鹿なんだ?」

「だって馬鹿につける薬はないんでしょ?井戸掘って落ちればいやんに」

 

一休みしているとじいちゃんが帰ってきた。

 

「タケシ~終わったんだか!?」

「ジサマ!!おめ、タケシに何やらせてたんだ!?怪我したらどうすらんだ!?」

 

「ただ掘るだけなんだすけ、怪我なんかしんねわー」

 

 いつもの事だが、小ばかにしたような言い方に腹が立つ。

結局掘った場所は水の一滴も出なかった、深さも1m掘るので精一杯だった。

 

「じゃあ、次はあの脇のところを 」

言いかけた時婆ちゃんがすごい剣幕で詰め寄ってきた。

 

「いい加減にせーてば!うちの大事なタケシだぞ!使いっぱしりみたいに使うなっ!!」

 

ジーンとしそうになった時だ。

 

「なんだや!?この腐れバッコぉ!」

 

 遂に喧嘩が始まってしまった。

ババチャも怒鳴っていたが、じいちゃんはガン無視。

このままだと婆ちゃんを殴ると思ったので、

「いいよ、やればいやんだろ、でも手が痛いからそんなに掘れねーよ」

 

そういうと何故か素直になった。

 

「おう、んだら頼むわ」

「ジサマ!オメも一緒にやれ!孫だけ働かせてはずかっしょなーんだか?」

 

 訛りばかりで申し訳ないが、「恥ずかしくないのか?」という意味で、分かりにくいところはご理解いただきたい。

 

 その日は、一日やって結局何も出なかった。

でも彼は諦めなかった、いや、単に引き下がれなかったのかもしれない。

 

 翌日、勤め先から何やら先の尖った大きな機械を持ってきた。

ドガガガガガ、ドガガガガガ、ドガガガガガ』

 

「えっなに?婆ちゃん!じいちゃんまた何かし始めたよ!!」

「まだかぁ、ほれ、見てみ!あのバカ 土建から機械借りてきて掘ってるわ」

 

だったら最初からそれでやれよ…

 

 井戸掘って落ちればいいのに、なんて考えてしまう私であった。

そして、トラクターの吸水を使って水を吸上げようとしていたが、吸い上げる音だけがむなしく響く。。。

 

結果なーんにも出なかった。

 

 妄想で言えば、あれは思い込みとも言うのだろうか。

私がじいちゃんと二人暮らしになった頃だ、既に車の運転は出来なくなっていたので、たまにドライブに連れて行っていた。

 

「タケシ、今度高速道路がうちの田んぼにかかるはずだから、そしたら1千万くらい入るはずだから全部やるわ」

 

 出ました、都合のいい妄想が。

 

「ここに高速なんか来るわけねーろ、つなげにくいじゃん」

「んだことね~さぁ、苦労かけたすけの、それくらいさせてくれ」

 

そういうセリフは本当にある時に言ってくれ。

 

未だにバイパスができた以外、高速のコの字もありません。

 

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