ひ孫とじいちゃん
30代の頃、よくジジ・ババに「孫を見せろ」とせっつかれたものだ。
あまりにうるさいので「毎日見てるだろ!ほら!」と私の顔を近づけていうと明らかに忘れている様子。
息子と思われてるのは正直素直に喜べない。
プレッシャーが半端ないのだ。
こっちは彼女もいなくて悩んでいるというのに。。。
ババチャにはついに、嫁さんも見せてやれなかった。
婆ちゃんは今の奥さんと付き合い初めの頃、病院に面会で連れて行ったので喜んでいた。
あれだけでも孝行したと思ってほしい。
そこ行くと、じいちゃんはひ孫も見れて、幸せだったと言えよう。
息子も小学1年までだったとはいえ、強烈なじいちゃんの印象が未だに記憶に残っているという。
原因のひとつが電話だ。
息子が産まれるとじいちゃんの行動力に拍車がかかった。
畑はある日帰ると隣の田んぼと合体し拡張、その畑には桜の木を植え、知らぬ間にくるみの木、栗の木まで植えられていた。
余談だが、桃・栗三年、柿八年という言葉をうのみにして、彼は栗なら早く育つだろうと植えた。ちなみにクルミは6年程度で結実するという。
そこで彼はクルミの木を買い、植えまくったのだろう。
昨年お墓の掃除に行った際、いつもなら草刈り程度で済むはずが、見慣れない木が数十本伸び人が入るにはあまりにも厳しい状況だった。
結実こそしていないものの、直径20~30㎝ほどの木なのでノコギリで炎天下の中、半日以上かけて切り開いた。
こういう地道なことに強いのはじいちゃんに似たのだろうと思う。
田んぼの拡張の時らしいが、私が仕事に向かった後コソコソじいちゃんが電話をする事が増えていたそうだ。
余りに怪しいので妻が訳を聞くと。
「何でもね〜さ〜!家の為にならんだ」と誇らしく言うのでムカついたという。
息子が気になってじいちゃんにくっついていくので、「邪魔してみ!」と妻がけしかけたところ、
「ふんっ!邪魔すんな💢」と大人気なくキレたそうな。
息子「うゎーんッッ、じいちゃん嫌いだよー」と絶叫し、泣きじゃくったという。
相当怖かったらしく、妻もけしかけた事を気にしていた。
その後暫くはじいちゃんを敵視し、近づこうともしなかった。
彼は気にもせず「ホーホッホ、シンジくんはいいこだのぉ~」と可愛がってますアピール。
私は黙っていられなかったので彼に理由を聞いてみた。
「じいちゃん、電話するのはいいけどお金かかるとか、誰かに頼んでしてもらうような話は必ず相談してくれよ、ちなみに誰に電話してたん?」
「なんでもねーさ~」
私を見ようとしない。
真っすぐにテレビを見ていて、どこに電話したか言わない…
(これは何か企んでいる)
婆ちゃんたちが気になって電話をしまくっていたのがよーく分かった。
じいちゃんは嘘が下手で、途中でほぼバレる。
じいちゃんが物事を頼む人たちも軒並み年を取り、当てもなくなったと思っていた。
ところがどっこい、強引なやり取りで若い人たちが(私よりは上だが)協力させられていたのだ。
ひ孫の喜ぶような事柄には全く結びつかない。
どうせなら竹で玩具でも作ってやるとか、じいちゃんでないと出来ないようなことをしてほしかった。
「じいちゃん、木なんか植えてどうするん!?」
「シンジくんが大きくなった時に食べられるようにさ~、桜は一緒に大きくなれば記念になるろぉ」
気持ちは嬉しいが、結果後始末が大変なのでは。
間髪入れず妻が言った。
「じいちゃん、栗なんて裏に生えてるろ!クルミとかも植えてるけど実がなったら、誰が処理するの!!?」
「あんなのかんたんだがな、シンジくんの為にならんだよぉ」
「じゃあ畑拡げたのは??、その年になって全部つくれねろー、私たちも仕事あるから暇ないんだよ!」
「俺は将来、シンジくんが家の前に公園あればいつも遊べると思って拡げたんさ~」
取って付けた様な理由を、まぁよくも思いつくもんだ。
大体、息子は今でも畑に来たがらない。
虫が苦手で草むらが大っ嫌いなのだ。
私も黙っていられず。
「あんなグズグズの土をいくら整地したって雨降ったらしばらく使えないぜ、公園にしたって池になるわ」
確信をついてしまったらしく、黙ってしまった。
「じいちゃん、おとしゃんとおかしゃんにおこられてんの?」
察してくれたひ孫に感謝でもしてくれればいいのだが、ほんとにこの爺は。
妻の父
妻と結婚し、息子が生まれると義父もよく遊びに来てくれるようになった。
孫に会いたい一心で、というのは分かっていたが、私も話を聞いてもらったり、遊びに来たのに草刈りや畑を耕してくれたりと本当に助かった。
じいちゃんも義父には好意的で、耳が遠いじいちゃんに合わせてくれたりと気が利く人だ。
あれは唐突な一言だった。
「あのね~お父さん、美津子とシンジは俺が守るすけね~、なんも心配しないで下さい」
明らかに苦笑いしていた。
「じいちゃん、それは俺が言うセリフだろ!」
「んだがぁ、ほっほー、でもねーお父さん、俺が守りますから心配しのでぇ」
言い出したら聞かないので、聞き流してくださいと義父に耳打ちした。
妻は20代の頃に母親が亡くなり、家の事は妻が切り盛りしてきたという。
妻が専門学校に入り、一人暮らしをする時分になると、兄と弟も家を出て義父はほぼ一人暮らしだったという。
出来れば同居しないかと妻に言ったことがあったが、「テリトリーから出たがらないのよね、逆にお客様もあんまり入れたがらないし」と家族でなければわからない問題を抱えていることが分かった。
ある日じいちゃんが言った。
「お父さんもうちで一緒に暮らせばいやんでね~が~」
もう話したわ。。。
まぁありがたい申し出なのだが、なにもしない人が言うと少しイラっとする。
これは妻も同じであったという。
だが、私とはレベルが違った。
家事の一切を行い、弟の面倒も見てきたので母親の様な気持ちになるのだという。
だから、お嫁さんに来てくれた後も色々とやってくれる。
あの器の大きさには頭が上がらない。
妻は父の事をあまり良く言わなかったが、面倒見の良さは父親似だと思う。
義父はメダカを買っており、血統?が混ざらない様、品種ごとに育てる。
何でも妻が子供のころには柴犬のブリーダーもやっていたという。
じいちゃんとは大違い、彼は私が面倒を見ていた猫が年を取ってきた頃、衝撃的な
言葉を放った。
「そろそろこの猫もいつ死ぬかわからねーから、新しいの買っておいた方がいやんでね~が~?」
「この子はたった一匹しかいないんだよ!物じゃないんだからそんな事出来るか!」
赤ちゃんの頃から一緒に暮らしてきた猫は、その存在が私を支えてくれた。
妻が身ごもった時にはいつも妻の傍らにいた。
妻を大好きだったと思う。
じいちゃんのような人は、どんな闇を抱えたらあんな風になるのだろう。
もしかすると戦争がそうさせたのかもしれない。
義父は愛でることを知っていた。
じいちゃんとの差はそこだろう、愛情を受けて育ったかは知らないが、面倒見に関しては義父に叶う者はそういないだろう。
チコの独り言
僕のご主人はしょっちゅう抱きしめてくる。
でも僕はお婆ちゃんが大好きだ。ババチャもだ。
一緒に寝たり、お話を聞いていたり、僕が好きな様にさせてくれる。
最近友達ができた。
隣の家のラッキー君とチャッピー君だ、一緒にネズミを捕る練習をしている。
この間六匹も捕れたのでご飯を食べるところに頭を置いておいたら、ご主人が大きな声で喜んでいた。
また捕ってきてあげよう。
じいちゃんは何か危ない匂いがするので近づかない様にしている。
一回も撫でられたことがない。
今夜は誰と寝ようかな。
お婆ちゃんの顔を見ながら寝てるのは好きなんだけど、たまにご主人のところにもいかないとなぁ。
明日はラッキー君と探検に行く予定だ。
しばらく帰れないかもしれないから、ご飯を一杯食べておこう。
餌場も探しておかないと。
すごく楽しみだ。
いつも家にいるだけじゃつまらない。
お婆ちゃんは心配するかな。お詫びにネズミを捕っておこう、昨日も大声で喜んでいたし。
三番目の男11へ続く。