二位ガン 呟く|ω・*)

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三番目の男11

 

 

酒乱

  私の親戚に、波留夫と言うおじさんがいる。

彼の実家はうちとよく似ている。家族が全員出ていってしまったのだ。

 

  彼の実家は、うちのじいちゃんの姉が嫁いだ先で、そこの旦那さんは酒乱だった。その次男が波留夫さんだ。

 

私が小学生の頃、親戚の爺ちゃん(以後タケオ)はしょっちゅう酒を飲んでは暴れ、暴れては連れ合いに暴力を奮い、うちに逃げ込んできた。

 

私のババチャと婆ちゃんは家に入れては親戚の婆ちゃんを匿って、タケオは毎回何処に行くか分かりきっているので直ぐにうちへ怒鳴り込んでくるのだ。

 

「どごだー!何うちのカカサ隠してらんだ!」

(カカサ-奥さん)

 

うちのじいちゃんはだいぶ前から耳が悪く、来たことも気にしてなかったのか怒鳴り込んで来たことも気づいてない時が多かった。

 

でもこの時はタケオの行動が違った。

 

「こんのージッコ!うちのカカサ何処に隠したんだ!」

 

 いきなり上がり込んで来たのだ。いつもは玄関先で婆ちゃん達が追い返すのだが、無理矢理じいちゃんしか居ない茶の間に上がり込み、私が追い掛け中に入ると、既に後ろからじいちゃんに掴みかかるタケオがいた。

 

うちのじいちゃん、背は170cmm程あり、力もかなりあった、絶対に力では勝てない。

 

それでもタケオはじいちゃんの腕に爪を立て、血が出る程の力を込め食らいついていた。

 

血がタラ~っと流れる様にはドン引きし、そして怒りがフツフツと込み上げてきた。

 でもじいちゃんは逆に押さえつけていた。

 

「何すらんだ!この腐れジッコ!ふぬ〜!」

仕掛けたのはお前だろう。

 

しかし、投げ飛ばされてタケオの負け。こんな事が数十回あり、私も学習した。

 

【酒乱は大抵記憶が無くなる、ならば】

 

 あくまで推論だが、酒乱になるような人物は気が小さい。

だから酒で気持ちを大きくする、だが反面記憶もなくなりがちだ。そう思い、次は「俺が言おう」と思っていた。

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 私も中学生になると背がどんどん伸び、柔道で鍛えていたので力もついた。

その頃またタケオがやってきた。

 

「どごだーっ!!カカサいらんだが!?いっつもいっつも隠しやがってー」

 

 年取ったくせに前より元気な様に見える。酒とは飲み方でこうも人を変える物か。

般若湯とはよく言ったものだ。

 

その時は婆ちゃんが先に出たが、怒りを抑えられなかったので私が変わった。

 

「何しに来た!いっつも酒飲まねば人のうちに来れないくせに!!かかってきてみろ!!あぁ!?」

 

「誰にものいってんだ~ぁ!?」

 

「お前に言ってんだよ!くそジジイ!!!」

私もどんどん怒りに飲み込まれていき、抑えが利かなくなりそうだった。

 

「お、おぉ、そんな言い方ねぇでねぇか。 年上に向かって、なんなんだぁ」

 

急におとなしくなった。

 

「まだ言わせらんだか!?」

「どうなんだ!?毎度人の家に怒鳴り込んできて!うちらの迷惑もかんがえれ!帰らないのならどうなるかわかってらんだよな!?」

 

「… まんず、帰るゎ…」

 

気おされたのか、タケオはそれから来なくなった。

 

 

と思っていたのだが、事実は違った。

その後、そこの長男の嫁さんが扇動し、家族とうちのじいちゃんまで借り出し、タケオに頭から袋をかぶせ、精神病棟へ送り込んだというのだ。

 

現代なら犯罪だろう。

 

正直、タケオは嫌いだったが、そこの嫁さんも人を使ってまで目的を果たそうとするので怖い人だなと思っていた。

 

うちのじいちゃんは気のいいところがあるので、良く利用された。

婆ちゃんも夜中まで愚痴を毎日来ては聞かされ、寝不足で体調を悪くした事があり、『嫁さんが可哀想』という事に納得がいかなかった。

 

波留夫もその一人だった。

 

酒乱の父を持ち、自己中心的なところが強い、反面男気はある。

男気ある発言をするのだが、何処かずるがしこい。

 

  タケオが老衰で亡くなると、連れ合いの婆ちゃんは施設に入れられ、息子夫婦は家を出た。

 

 波留夫はその後の後始末を全て任されたのだ。それに対しては同情する。

東京に住んでいる彼が毎度ここまで片付けに来るのは大変だったろう。

うちのじいちゃんに頼むのも分からないではない。

 

長男夫婦がやればいいではないかと思ったが、そのお嫁さんが夫に実家へ行かない様止めていたらしい。

 

長男夫婦が引っ越した後、まもなく長男は自殺した。

 

理由は分からない。長男の母親に所在も一切教えなかったそうだ。当然遺骨も渡さない。親を捨て、会うことも出来ず、実家にも帰れない事に重責を感じたのでは、と、あくまでじいちゃんの推測で聞いただけだ。

 

今もどこに住んでいるか誰も分からない。

 

警報扱いの男

 ある年のGWのことだ。

「三雄さんいるかなー」

 

波留夫だ。声で直ぐにわかった。ちょっと鼻にかかったドスの効いた声なのでわかりやすい。

 

「じいちゃん耳遠いから聞こえてないんで、中へどうぞ」

 

波留夫が来るようになった頃、私の婆ちゃんは痴呆が進み施設に入れ、私とじいちゃんでの二人暮らしだった。

 

その情況も波留夫には都合が良かったのだろう。

 

「いや~実はさ、家の横にある車庫を解体しようと思うんだけど三雄さんに手を貸してもらえないかなー?」

 

この時じいちゃん80代半ば、厚かましいにもほどがある。

 

「んだの~せば(なら)業者よりやすいっけのぉ」

 

「ちょっと待って!波留夫さん、じいちゃんの今の状態見て言ってます?さすがに無理があるでしょ」

 

私は怒りを抑えていた。

いくら面倒くさいじいちゃんでも私にとっては家族だ。自分本位で老人の事を考えもせず、人手に使おうとはどういう了見か。

 

「いやータケシ、そんなつもりじゃないんだよ。どういう風にやったらいいか聞こうと思ってさ~」

 

気楽なものだ。

じいちゃんが一旦始めたら止まらない事を見抜いてるくせに。

何ほどじいちゃんに仕事を押し付けただろう。

家の整備、屋根の除雪(危ないからから止めさせた)、各業者とのやり取り、数えきれない。

 

 疑問があった、波留夫は姉が実家の近隣にいて、しかも姉の息子が私と同じ年で農業で生計を立てていた。私より行き来の時間は都合が利くはずなのに、何故かうちにばかり頼んでくる。

 

しかもそこの家族までもがじいちゃんに頼みごとをしてくる。

 

釘は指しておいたが、案の定波留夫が東京に帰った後もじいちゃんは不法投棄よろしく、コンクリを土に埋めようとしたり、近所の山に投棄しようとしていた。

 

このことで波留夫の実家の隣家から警察に訴えると脅しをかけられた。

 

「じいちゃん、波留夫さんの家の問題なんだから、自分で業者に頼ませるとか、させねば駄目だよ!甘えてなんでもさせるじゃん!」

 

「大変だど思でやれ~、何かあったんか」

「あそこの隣の家から、警察に訴えるって電話来たんさ!あの人俺の事目の敵にしてるんだ」

 

「なんだや、なにしたんだ!?」

「おめのせいだ!いや?せいじゃないか?何せ、うちが農業やめてから馬鹿にするわ、怒鳴るわでひどいんだわ」

 

 その男は竜一(りゅういち)といい、集落でも疎まれている。

ある日じいちゃんが米作機具一式を廃棄し、やめた事でなぜか私が“農業をしないグウタラ息子“と烙印を押し、事あるごとに馬鹿にしてくる。

 

じいちゃんはやっと理解してくれたようで、私の言うことを聞いてくれた。

 

その後も波留夫は長期休暇の頃になると帰ってきた。

 

 私が所帯を持った頃の事だ。

 

プルルルルプルルルル

妻はナンバーディスプレイにしていてくれたので『ハルオサン』と出るようにしていた。

あれを見ると悪寒が走る。

 

「あっもしもしー、お久しぶりです~、ハイ、ちょっと待ってくださいね」

美津子は受話器から離れると顔が歪んだ

(波留夫さん、じいちゃんに代わってくれって)

 

「おー波留夫だか、よーきこえねのー?離れったすけだか~?」

 

いや、あんたの耳が遠いからだ。

 

「タケシー、おめに代わってくれとさ」

(ほんとに迷惑だ)

 

「はい?タケシです」

「おう、タケシー?悪いんだけどさー三雄さんに伝えてくれないかなー、来週の土日に帰るんでちょっと寄ろうと思ってさー」

 

「分かりました、気を付けて」

とは言ったものの、また面倒なことを持ってくるのでは、彼が来るとロクなことがない。

見返りなど求めないから来ないでほしい。

 

翌週早速朝からやってきた。

「どうも~、うちの奥さんにも手伝わせようと思ってさ、連れてきたんだよ」

 

「いつもお世話になってます、お久しぶりです」

 

奥さんは公美子(くみこ)さんと言い、気は強く、波留夫の手綱を引いているのかもしれない。

 

「今日はどうしました?」

 

何か段ボール箱を持っている。

 

「いやー、タケシに来てもらおうと思ってもらいものなんだけど、シャツとか持ってきたんだよ」

 

そんなもん要らん。

開くと今時誰も着ない様なポロシャツや、Tシャツというより肌着ばかりだった。

間髪入れず、

「波留夫さんが着たら良かったんじゃ無いですか?」

 

笑顔で美津子が言った。

 

「俺にはサイズデカいからさー」

「タケシには逆に小さいんですよ、もらっても着ないんじゃもってても仕方ないし、ねっ」

 

「んだな、流石に着ないっすわ」

美津子はホントに強くなった。じいちゃんに鍛えられたからだろうし、逃げなかったことが何よりで私も頭が下がる。

 

「あっ」この時、ふと記憶がよみがえった。

かなり昔、親戚の葬儀でじいちゃんが面倒くさがりブレザーを持ち出して着ていこうとしたので婆ちゃんともめていたことを。

 

十着以上の上着ばかり、あと色違いで合わせられないズボン。

「波留夫からなんでももらうのやめれ!あのヤロ、要らないのなんでも押し付けていきやがって」

 

危うく同じ目に合うところだった。

 

美津子が断ると用事が無くなったらしく、「じゃあ帰るわ」と素っ気なく帰ろうとした。

すかさず「波留夫さん!シャツわすれてますよ!」と美津子。

私も気づいてはいたが言いづらく悩んでいた。(ナイス奥様)

 

「えっ、!?あぁ、じゃあ」

 

「てっきりじいちゃんに会いに来たのかと思えば、ゴミの処分にうちに来たんじゃない、忘れたふりしてたのバレバレなんだけど」

 

あなたの言う通りです。

 

その後うちのナンバーディスプレイには『ハルオーケイホウ』と台風の様に登録された。

 

その後、波留夫の実家は人に貸し、彼らは一切私の家に寄り付かなくなった。

つまり私たちに“用事が無くなった“のだ。

 

卑しい話だが、彼からの見返りと言えば素麺を食べたのと、行きたくないのに、いきなり知らない夫婦と話をしろと意味の分からない“飲み“でごちそうになったことぐらいか

 

人との付き合いは損得勘定だけでは長く続かないものだ。

 

三番目の男12へ続く。

 

 

 

 

 

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