二位ガン 呟く|ω・*)

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三番目の男 9

 

斬新な料理

 私のじいちゃんは、亭主関白ではなかったものの、料理・家事は婆ちゃんが全てしていた。

その婆ちゃんが、私が中学生の時、胃のポリープにより入院したことがあった。

 

流石のじいちゃんも、晩御飯をどうするかで悩んでいたらしく、私に相談してきた。

 

「晩のご飯どーすっかのぉー」

 

「親戚のおばちゃん、今夜来ないんだっけ?」

 

「今日は来ねーんだとさ〜」

「うーん、どうすっか…」

 

 じいちゃんは壊滅的に料理が出来ない、好みも変わっており、妻曰く「汚爺(おじい)」というだけあり、納豆に塩を入れ、かき混ぜる。

 

 塩を入れる人は他にも居そうだが、箸を一舐めしてから塩の瓶に突っ込む、その水分で塩を吸着させるのだろう。

この姿を見て妻は顔を歪めていた。

 

 素麺を作った時もそうだ、普通めんつゆ等で食べるのが一般的だと思うが、彼は一味違う。

生醤油をドバドバかけて啜るのだ、そして一言。

 

「スカッとして、うんめぇーのー」

これ聞いて「男らしい!」と思う人はいるのだろうか?

 

一度真似をしてみたが、とても食えたもんではない。

しょっぱい話だ。

 

 以前スナックで飲んでいる時にこの話をしたところ、私の地域で生醤油をかけて食べるものと勘違いされたことがあった。

 

  話は戻るが、この時 私は自分で作る選択をした。

前述の通り、じいちゃんに料理スキルは全くない。

それに、ちゃんと手を洗って作るかも疑わしい。

 

この頃、中学生だった私は、ある程度ならご飯も作れた。ただ、柔道部だったのでハードな練習の後に細かいことはやりたくない。

 

「焼きそばにするー!」

「んだの〜、せば(なら)材料買う時迎えにいくわ」


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  という事で、珍しく協力体制の2人。

とはいえ、じいちゃんはお金出すだけ。

 

それでいーのだ、バカボンの歌詞のようだが、手も洗わないような人が作るとなると、万が一があってはたまらない。

 

  地元のスーパーへ立ち寄り、キャベツ・人参・玉葱・豚肉・焼きそばをかごへ入れた。いつも婆ちゃんと来た時は、八方揚げやとびっ子(トビウオの卵を塩漬けにしたもの)をかごに入れていたが、改めて値段を見ると高い事に気づいた。

 

 お金を持っていると使ってしまう性分なので、ガンプラや、漫画に使う事も少し考えねばと思ったものだ。

 

それも直ぐに忘れたけど…

 

その夜はじいちゃんと美味しく焼きそばを食べた。

 

   翌朝

「おー!タケシ、朝ごはん作ったっけ食うてみれ〜」

 

えっ!?

 

  一瞬目を疑った。

そこにあったのは5cm程ブツ切りにした長葱をぶち込んだ卵焼き、というかスクランブルエッグみたいなものだった。

 

ホンっと彼は、人に漫画みたいなアクションを取らせる。
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(写真は良いイメージです、実際に作ると食品ロスになるので作りません)

 

私の家ではスクランブルエッグを「ホロホロ」と呼んでいた。

「じいちゃん、これ先にネギ入れなかったろ?」

 

「あぁー、ネギなんか生で食えるからいーろ〜」

 

(えー、きたねッ)

 直感でそう思った。

 

箸でツツくとネギだけが、「俺は生だ!!」とアピールしてくる。

 

「じいちゃん、俺あんま腹減らないからいーわ」

 

  朝はしっかりと食べる派の私、だが、あの見た目に流石に危険を感じた。

しかし、じいちゃんはというと。

「うんめのぉー」と言いながらパクパク食べている。

 

信じられない。

 

その後、彼はホロホロにハマり、醤油をひとたらしで焼いてみたり、玉葱をほぼ生で入れたりと調子に乗り、結果、生食が祟り、玉ねぎの殺菌効果で胃を痛めたのだった。

 

何でも隠す

 

  じいちゃんの姉が嫁いだ先は近所にあり、鯉の養殖をしていた。

時折そこから鯉をもらっては鯉コク(味噌汁)にしたものが食卓に出るのだが、くどくて嫌いだった。

 

 でもじいちゃんは別。

鯉が大好き、スーパーで買ってまで食べるのだ。

親戚んちで買えば安く、丸っと1匹買えるのに。

Carps の神聖な湖の Rewalsar - 魚のロイヤリティフリーストックフォト

 後で聞いたが、婆ちゃんも鯉が嫌いだったとか。

あまりに同じものばかり要求されるので嫌いになったらしい。

 

私、川魚は好きなのだが、鯉は油がのり過ぎであんまり、なのだ。

多分甘辛いタレでぶつ切りにしたものを炒めるとかすれば、ビールのつまみになるかもしれない。

 

 私が高校生の時分、じいちゃんはあまりに婆ちゃんに探られるので、買ってきたものを車に隠しておくことが増えてきていた。

 

 ある日、婆ちゃんが軽トラを探っていた。

あまりいい趣味とは言えない、婆ちゃんも彼が隠すようになった責任の一端があるのだから。

その時、私が呼ばれたので車庫に入ると、婆ちゃんが顔を歪めていた。

 

「タケシ~、これどうにかしてくれー」

 

 異臭がした。

発砲トレーに入って置き去りにされた「鯉」のぶつ切りがそこに横たわっていた。

 

 「うぇ~っ」

嗚咽が漏れた。

婆ちゃんは吐いた。

 

この後、探せば探すほどあちこちからお菓子やら、カップ麺を隠しており、隠し財産と言ったところ妻から「こんなん財産じゃねーわ」と一蹴されたことがある。

 

 この間もノコギリの刃が丸まり、切れないので妻に買ってほしいと言ったところ「隠し財産あるんじゃない?」と言われたので探したところ、新品が出てきた。

 

 隠すで言えば、じいちゃんの部屋から「マムシ酒」が出てきたことがあった。

あれは気味が悪かった。作っているところは見たことがある。

 

 ある日山に向かい、どうやったのかマムシを捕まえてくる。、

そして一升瓶に入れ、何度も水で溺れさせ、その水を捨ててはの行為を続ける。

気持ち悪いので一寸家に入り、「ジャボジャボ、トントントントン」といった音が鳴りやむ頃見に行くと、マムシは全く動かなくなり、多分召されたのであろう。

 

彼の滋養になるかと思うと申し訳なく思ったが、途中で離して逃げられるのも困るので我慢した。

 

 隠すで言えば、隠し事もよくしていた。

どこへ行くとも言わず、突然軽トラでGO。

婆ちゃん、ババチャは車の言った方向を気にして親戚縁者に電話をする。

 

 何故かというと、金額のかかる事を画策するからだ。

そんなに余裕のある家庭ではなかったので、婆ちゃんはお金の管理をしていた。

だが、「ツケ」という方法がじいちゃんにはあった。

厳密にいうと、「ツケ」で強引に頼んで買ったり、頼んだりするのだ。

 

 唯一しなかったのは浮気位のものだろう。

顔はロシア系の堀の深い顔で、背も高いのでそれなりにモテたと思う。

 

だから目立つのだ。

 

 隠し事をしていると「おめさんとこのじいちゃん〇〇にいたね」と居所がばれやすい、それがばれると“黙秘権“が発動される。

人には隠し事などいくつかあるだろう。

 

私もある。

 

だが、じいちゃんはありすぎた。ある過ぎるがゆえ、妻にまで「くされじっこ」(くそじじい)と罵られちゃったりするのであった。

 

 

10へ続く