二位ガン 呟く|ω・*)

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三番目の男14-③

 

「こんなはずじゃなかった」

 

「何でこんなことするの!?」

 

「おれもやる!」

 

様々な感情が交錯する中、我が家は一体どうなってしまうのか…

 

春、色褪せて

 Xデーから数か月後、冬真っただ中の中で驚いたことが一つあった。

 

まだ5歳のシンジが「おれもじいちゃんのお尻拭きたい!お手伝いする!」といったことだ。

 

雪かきが控えており、妻は朝ごはんの支度、まさかシンジ一人に任せるわけにもいかず、(断ろうか)とも考えた、でもシンジの気持ちを無下には出来ない。

 

「一緒にやるか!?」

「うん!おれ、お父さんとやる!」

 

 好奇心旺盛な年頃になってきて、進んでお手伝いをするようになってきた。

でもお手伝いの内容は介護なのだ、しかも便を拭くことを手伝わせるのはかなり抵抗がある。

 

「こう、下から上に上げるようにそっとだよ!お父さんと同じように取らないと腕につくからね」

「うん!臭いね~じいちゃん」

 

 耳が遠くて良かった。

じいちゃんはまるで飼いならされた動物の様に、なすがまま、シンジが拭いていることも気付かず立っていた。

 

(よし、これで雪かき少しは出来るかな)

 


 

 

「シンジ、ありがとうね~!凄いねじいちゃんの介護手伝うなんて!!」

「だって俺のじいちゃんだもん」

 

素直でかわいい。しかし、厳密にいうと君のひいじいちゃんなんだよ。

以前電話を邪魔して追い払われ、「じいちゃん嫌いだ!」とブチ切れていた事も忘れている。

 

「おーい、まだだかー?はよしてくれっちゃ」

 

 人の気も知らないでいい気なものだ。次はドリルでも差し込んでやろうか。

私が仮に長生きしたとしても不用意に茶の間に来るのは良そう。

ポータブルで用を足し、お願いする方がはるかに面倒をかけないだろう。

 

雪に埋めたい気持ちを抑え、シンジのお手伝いを妻に報告し、褒めてあげるよう促しているうちに時間は過ぎて行った。

 

「ごめん、家の前しかできないわ、俺の車は無理やり出るから、帰るまで放っといてくれ!」

「あぁ!ありがとう、ごめんねもう少し早く起きればよかったね」

「いや、どっちかっつーと、もう少しじいちゃんに遅く起きて欲しいよね」

 

そういい、ご飯も食べずに会社へ向かうのだった。

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  こんなことがいつまで続くんだろう「こんな事になるとはな… でもじいちゃんだからな」

130歳まで生きると断言したじいちゃんだったので、妻と二人悩みと不安は消えなかった。

 

 そして季節は春を迎え、景色は憂いているものの、私たち夫婦は気持ちが色褪せたままだった。

 


 

 

 

介護野郎Aチーム

 春になるにつれ、戸を開けて下の処理にむせ返ることも軽減されてきた。

だが、妻は満足していなかった。

 

そう、じいちゃんが自分で排泄することを。

 

 恐るべきは彼女の意志の強さだ。

粘り強さと言ってもいい、「出来るだろう」と見当が付くことに関して必ずと言っていいほど相手に躾ける。

 

春になり、じいちゃんの現状確認の為にケアマネ・訪問リハ・介護用品業者・が一堂に集まった。

 

「三雄さーん、元気だったー?」

「オーホッホー!おめさん久しぶりだね~」

 

女性には愛想がいい、確かに華やかに思うのだろうが、私は介護用品のお兄さんがいつも親切丁寧に対応してくれるのでとても助かっていた。

 

レンタルなのでお金は安くて済む、じいちゃんが弱ってから購入したのは湯船に入った時のイスとトイレで捕まるバーだ。

 

バーに関しては私たちもあると都合がいい、特に私は腰を痛めた時に捕まり立ちが出来たので助かった。

 

「三雄さーん、最近ちゃんとリハビリしてる?訪問リハはあまり利用してないみたいだけどー?」

「えっ、なんだえ?」

 

(聞こえてないのか…)

 

「さ・い・き・ん・ちゃんとリ・ハ・ビ・リしてるー?」

「おー、施設行けばしてるさー!」

 

   耳に拡声器をあてて話そうか…

補聴器は何度も買い替えて、その都度なくしたり、壊したり(落として踏んづけたらしい)

しまいには着けることも面倒臭がり耳に直接大声で言わなければならない。

 

「ちゃ・ん・と・し・な・い・とー、へ・ん・な・あ・る・き・か・た・になっ・ちゃ・う・よー!」

 

(本当に申し訳ないです)

 

すかさず妻が

「じさまー!おめちゃんと聞いてらんかー!?」

「聞いったサー!」

 

彼の応答に信用がない、私は面倒くさがりなの位で、(もういいわ)と妥協してしまうところを彼女は見逃さない。

 

流石のじいちゃんも部屋に逃げる事も出来ず、介護チームからの質問コーナーが始まった。

 

 


 

 

やれば出来るんですね

 

「さいきんー、お家の中でー、こうしてほしいーって事はー、な・いー?」

 

「んだのぉ~、玄関出る時に捕まるどこねーっけ転びそうになるんがのー」

「おれもさぁ、畑いったり、長屋に行かねばならねっけなぁ~」

 

「三雄さん出掛けたりするんですか!?」

ケアマネがすかさず妻に聞く。

 

「じ・さ・まー!おめもうそんな事やめてくれー!うちらこれ以上悪くしたら面倒見切れねーぞー!!!」

「んだがー!ほっほー!んだばやめておごかのう」

(そうか、それならやめてこうかなの意)

 

 一度本気で柵でも作って閉じ込めようか考えた事がある。

実際あった話だが、近所でも有名なうるさい婆さんが実際に車庫の二階に入れられていたことを考えるととてもできなかった。

 

妻はそういったネガティブ志向ではなく、人間の意識に訴える躾を施す。

 

「じさまー!いいかー、ウンコ出そうになったらオムツにするか、ポータブルにするんだぞー!」

「あーわがる、わがる」

 

この言葉に何度イラっとしただろうか。

 

「わがらんだったら、なんで隠したり、そこらに投げておくん!?」

「んっ、んーん、んだの~」

 

「ん」が多い。完全に妻に押され、キンカ(難聴)特有のデカイ声まで出なくなった。

 

「じさまがいう事聞いてくれねばうちらが大変だんぜー!」

「わがった、ちゃんと聞くてば」

 

 私も一応補足をしておいた。

「ジサマ、美津子の言ってること分かるろー?うちら、じいちゃんが便漏らしても恥ずかしいとか、情けないとか思ってねーんだ。隠される方が面倒なんさ、それだけよ。簡単に出来る方を選んで欲しいんだー」

 

 妻はさながら、猛獣を手なずけたサーカス団員のようだ。

それからというもの、毎日のように妻は監視と躾を繰り返し、完全ではないが、じいちゃんは朝はゆっくり起き、お尻の状態は部屋でチェックし、を家族で繰り返すことで軽減したとさ。

 

三番目の男15へ続く

 

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