何が彼をそうさせたのか…
どうしたらあんな悲劇を起こさず平穏に過ごせたのだろうか…
今となっては誰にも分からない。
だって彼はもう居ない、あの時、私たちは現実から逃避した。
Xデー ①
あれはじいちゃんが歩行器で歩くようになっていた頃の話だ。
あの彼がまともに歩けなくなっていた、原因は以前書いたが骨折を2度経験したことによるものだ。
理由はリハビリをきちんとしなかったことと、腰がスキージャンパー並みに曲がっていた事である。
その日は12月30日、我が家は妻と結婚してからというもの、12月29日までは大掃除、30日はおせちの買い出し、31日におせちづくりというのが決まりになっていた。
私も結婚する前は大掃除を一人でやっていたが、流石に自分の部屋と玄関をするだけで終わってしまう。
そういった意味でも妻が来てくれたことはこの家にとっていい事なのだ。
だが、12月30日、まさにこの日は私たちにとって阿鼻叫喚の悲劇が訪れたのだった。
「おーい、玄関終わったし、あと廊下から風呂場までやったらどこ掃除する?」
流石に疲れてきた私は、何気に「そろそろ休憩しませんか?」と遠回しに聞いた。
「じゃあ次は二階で!お願いします」
聞かなきゃよかった。
自分でも馬鹿だな、素直になりゃいいのにとよく思ってしまう。
だが変なところに気を使ってしまうのだ。
そんなところは自分の嫌いな部分でもある。
「分かった、でもちょっと休憩させて!」
「あぁ、はーい!休んでいいんだよ」
大体いつもそうよ、彼女は出来た人。
私はズボラ夫… 勝手にそう思ってる。
などと考えてるとあっという間に時間が過ぎてしまう!急いで掃除済ませて、少しでも早く休まないと。
なぜなら明日は買い出しの日、そして待ちに待った家族忘年会の日。
そう、じいちゃんには悪いが、この日だけはうちら三人で買い出しに出かけた後、お店を選んでおいて忘年会をするのだ。
シンジが大きくなってきてからは行ける所も増えてきたのでこの時は、チェーン店ではあるがステーキのお店に行くことにしていた。
「大体こんなもんか!?買い忘れあったら言ってくれよ!明日は出歩いてる時間ないだろうから」
「ん~、大丈夫!それよりお腹空いたから早く行こう!シンジは?お腹空いた?」
「俺まだどうでもいい」
「… 」
「いい、空いてなくても行くんだ!美味しいの見れば腹減ってくるわ」
妻より私の方が限界に来ていた。
私はとにかく食い辛抱なので、食べることが好きだ。
妻もそっち側なので気が合う。
でも息子はあまり食に関心がない。
子供のころから食いしん坊だった私には考えられない。
見た目はクローンではないかと思うほど私に似ている。
私の子供のころの写真を見て「これはおれ?シンジ?」と間違うほどだった。
話は戻り、
念願のステーキを注文し、息子はステーキと言っていたくせに「ハンバーグがいい」と急な方向転換。
「なんでもいいわ、その代わり残すなよ、クエよ」
私が「クエ!クエ!」と何度も連呼したことがあり、【クエ鳥】と名付けられたことがあった。
「わかったよ~」
こんなやり取りをしながらも三人で楽しく夕飯を済ませ、家路についた。
「あ~、じいちゃん起きてるな、電気ついてる」
「あれ、本当だ、一応ご飯用意しておいたんだけどね、食べてるかな」
買い物かごを下ろし、ドアを開ける。
『ムァ~~~』
「なっ、!?なんだこの匂い???うっ、オェ~」
「ヒャー、わぁ~っ、えっ!!??何の匂い?」
「じさまーああああ!どうしたぁ?!」
妻が叫んで上がり込んだ。
私はシンジを家に入れない様にし、においの元を辿った」
どうも異臭の正体は玄関わきに無造作に置いてあったゴミ袋だ。
夜なので良く見えなかったが、脱糞したらしく、それを隠そうとしたのだろう。
しかし袋は縛られていない。
確かにうんこは臭い。
それは当たり前だが、異常な匂いだ。下したのだろう。
ご飯時の方には大変申し訳ない。
だが事実なのだ。
祖母も、曾祖母も最後まで見送ったが、ここまでの事はなかった。
私は異臭のする袋をとにかく締めた。よく見ると玄関にも塗った食ったような跡があるではないか。
気分よく帰ってきた我々に何という仕打ちだろう。
「ジサマー!なんでうんこ垂れたんならトイレ行かなかったん?ケッツ洗ったんだか!?」
じいちゃんはこの時はまだ一人でトイレに行けた。
多分面倒くさがったのだろう。
「おぉー、ちゃんと垂らしたの捨てたがのぉ~」
ちゃんと、ではないな。
「あぁー!?なんだこれー??」
また妻の声が響く。
息子を車に待たせてはいるが、気になり、トイレに向かうと。
そこには便器内に突っ込まれ、とにかく吸収するだけ吸収した紙オムツがあった。
この日、ちがう意味での大掃除が、夜分に開催され美味しかったステーキの匂いなどすっかり忘れるのであった。
Xデー②に続く