二位ガン 呟く|ω・*)

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三番目の男 8

 我が儘

 うちのじいちゃんは好き嫌いが多い、私は自慢ではないが「ラッキョウ」以外は何でも食べる。

 

 彼は、若いころから小骨の多い魚は全く食べようとしなかった。

単に小骨を取りたがらないのだ。

 

婆ちゃんが、晩御飯にイワシの焼いたのを出すと、「イラナーイ」と子供のように言う、これに婆ちゃんはよく腹を立てていた。

 

 (少しは作る側の事も考えればいいのに…)

 

 私と二人暮らしの頃、彼も衰えを感じ始めたはずが、畑にせっせと趣き、野菜を毎日どんどん持ってくる。

『もういや!!』というほど持ってくるのだ。

だから晩御飯のおかずは野菜メイン、私自身は食物繊維のせいか、結構痩せた。

 

 多分根野菜(大根、人参)が多く、お通じが良かったのかと思う。

 

 彼は大根の煮物が好きでよく作ってあげた覚えがある。

 

前妻によく作ってもらった煮物は、大根を煮る前に一回油で揚げる。

あれを真似してみたところ、油がくどかったようであまり食べなかった、だから普通に大根と魚で煮てみたり、時にはマグロと煮てみたり。

 

 しかし、さすがに何十回も作ると私は飽きてしまう。

 

「俺は大根煮がいっちばん好きだぁ~、あと何にも要らねのぉ~」

 

(うそだぁ~)

 

 昔、じいちゃんの発言で、婆ちゃんと三人で【これ一品あればご飯が進む】というのを話したことがある。

 

婆ちゃんは「納豆」

 

私は悩んだ末に「鯖缶」をチョイス。

 

じいちゃんはというと。

 

「おら~、鯖缶…と、いかの塩辛…と~、生卵…と~、んだな~あとはご飯ですよと、味噌つゆあれば何にもいらねなぁ~」

 

 5品ありますがな。。。 

うちは旅館でも行かない限り、朝から5品なんて出ません!!

 

しかも「味噌つゆ!?」味噌汁って今まで言ってなかったっけ? 

 

「じさま!そんだけあればあと要らねわ!ほんっと我が儘だてば!!」

  三人で笑ったのは珍しかったので、よく覚えている。

天然なのか、ボケをかましているのか、周りを気にせず発言するところは羨ましい限りである。

 

 早起き 

 年を取ると、寝ている事で疲れるから早く起きる、と聞いたことがある。だが、じいちゃんは目的によって異なる。

 

 こんな言い方だと動物の生息を観察している様だが、家族だけならいざ知らず、他所の家庭まで巻き込んで何度も苦情が来たことがあった。

 

彼は米作りを委託したあと、数回にわたり委託先を変えている。

 

  ある朝、早朝5:30頃にも関わらず電話が来た。

 

「タケシちゃんだけ?あのさ~、おめさんとこのじいちゃん、さっき来たんだども、田んぼの話なら夕方にしてくんないかね~」

 

「えっ!?何時ごろきたん?」

 

「5時ごろさ~、じいちゃんも、よぉーあんなはよ起きれるもんだ」

 

「申し訳ないです、もしかして田んぼ作ってくれって話ですか?」

 

 「んだみたいだね。でも今貸してる人に了解得ないとだめだーっていっといたで!」

 

 相手方のおじさんは気のいい人で、快く許してくれた。おそらくじいちゃんはまた小作料を多くしてくれる農家を探したんだろう。

 

 だが、当の本人がいない。

一体どこへ?会社へ行く準備もあるので、先にご飯を食べようとしたところ。

 

 カラカラー

 

玄関の戸をしずーかに開きじいちゃんが帰ってきた。

私と顔を合わせずに寝室へ向かう。

 

どう見てもバツが悪い顔をしている…

(新スキルを身に着けたか)

 

「じいちゃーん、さっき田五八んとこのおじさんから電話来たんだけど、何の用だったん?そんなに早くいかなくてもいいーろー!?」

 

「朝はよいかねーと、仕事に行くと悪いすけいったんさ、ホホッ」

 

軽くイラっとした。

 

「なあんか隠してることねやんだか?!」

 

「何にもねーさー」

 

そういい残し、彼は寝た。

 

 じいちゃんの行動パターンは田んぼをやめて変わったが、必ず早起きし、新聞を読みふけっている。そして7:00になるとNHKをつける。

 

寝るなどありえないのだ。

 

私は7:30には家を出る。だからそれまで「寝てるふりでやり過ごそう作戦」を思いついたのだろう。

 

  以前、大腿骨の手術後退院してきた時もレジェンドぶりを発揮してくれた。

 

 

夜中の3時頃。

「……ちゃーん」「…ーい」

 

何か聞こえる。夢か、と思っていたら。

 

「おーい!!タケシちゃーん!!」

 

 これは夢じゃない!?びっくりして玄関へ向かうと、戸が開けっ放しになっている。

 

「えっ??なんで車が止まってるん?」

 

 ライトつけっぱなしでエンジンのかかった車が、家の前で止まっている。

私は即座に外に出た。

 

家の前には誰もおらず、寝起きなので頭が混乱している。

 

「ジサマー!!おきなー!!!」

 

 家の脇から声がしたのですぐさま行くと、そこにはスノーボーダーが座るような格好でじいちゃんが座しており、隣には新聞配達のおばちゃんが声をかけていた。

 

「ほれ、タケシちゃん!じさま施設入れねばダメだわー!!」

 

 教えてくれたのはありがたかったが、相手が良くない。

おばちゃんは近所でも有名な「広報局」だ。新聞より、いち早く噂を広める。

 

これは半日で広まるなと思いながら、じいちゃんにそっと聞いてみた。

 

「じいちゃん、なんでこんな早く起きたん?どこ行くん?」

 

「おら~役場に行こうと思ってやれ~」

 

役場はそんな早くにあきまへん。

 

 似たようなケースが婆ちゃんの時にあった。

胆石が見つかり、入院したときに痛みのせいか、はたまた環境の変化かで隣の、明らか婆ちゃんより若いおばさんを「おかあさ~ン」と甘えるように言っていたのだ。

 

医者にも「環境の変化で一時的にボケる時があるんですよ」と言われたことがあった。

 

 役場に何の用事があるのかわからないが、先ずろくな用事ではない。

 

 結局この日、事が済んだものの、またどこかへ行くのではないかと不安で、じいちゃんについていた。

 

 この後、妻が子供を連れて起きてきた。

 

「なんでこんな早くおきてるん?」

 

何故あの大声で起きないのか不思議だったが、子供まで被害を被らなかったのは幸運といえよう。

 

 奥さん、熟睡出来てよかったですね。

 

9へ続く。