二位ガン 呟く|ω・*)

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三番目の男 7

   今の 妻と出会って数回の頃だ、私はじいちゃんに順調にいくまで話すつもりはなかった。

 

そんなある日、

「誰かいい人いねーんだか? おら心配だんさな〜」

 

そう言われ、流石に黙っているのが苦手な私は

「実は付き合っている人がいるんだけど、会うのはもうちょっと待てくれない?まだ数回しかあってないんさ~」

 

そういうと彼は珍しく素直だった。

「んだが(そうか)、ならいいとき来たら合わせてくれよ死ぬ前におめの事が気がかりだからよ」

 

(なんか年寄りにこう言うこといわれると弱いんだよな)

 

 以前の彼とは違う言い回しだった。

無理もない、じいちゃんも歳をとった。昔の様に自由に動き回れる訳ではない。

自分の事を【年寄り】だとようやく自覚したのだろう。 

 私はじいちゃんに「安心させてやりたい」と密かに思いを抱いていた。

 

 まさかこの後様々な事件を引き起こすとは露にもおもわず…

 

  私は彼女と幾度かデートを重ね、ついに家へ誘ってみた。

「じいちゃんをほっとさせて上げたい」という気持ちと、、、

 

まぁ下心が… なかった訳ではないのだが…

 

 最初はあのじいちゃんも彼女に「〇〇さん」とさん付けで丁寧に話すので少し驚いた。

 

私も久しぶりに家の台所に女性がいる姿を見て、とても新鮮で見とれていた。

 

「じいちゃん洋風のご飯作ったんだけど口に合うかな~?」

「んだ、おっかね(とっても)うんめぇのぉ~」


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などと三人で談笑し、何か月ぶりだろうか

茶の間が明るく楽しい雰囲気に包まれていた。

 

 

  だが、彼女が2度目に来た時にはもう「おーい美津子」と呼び捨てになっていた。

 

 

 当時の事を妻に聞くと「私、じいちゃんの女じゃないんだけどとは思った。」と。


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だが彼女は優しく対処してくれた。

 

 彼女が家に来るのも、回数を重ねるごとにじいちゃんは元気をともり戻し、?

いや、元気だったのだろう。元気から「いい気」になっていくのが目に見えてわかるようになった。

 

 「美津子さん、俺ははね!大東亜戦争に行ってきたんだよ!あれは大変だった。」などというのだが、細かいことは言わない。

 

というか都合のいい事しか覚えていない。「特攻隊」に関しては全く都合のいい事ではないのだが、1で話した「クーニャン」については彼女に下衆な話をしたくなかったので黙っていることにした。

 

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  今思えば妻はよく同居してくれたなと思う。

いくら好き同士と言えど、面倒な姑達が居れば家に入りたくないと言ってもおかしくなかった。

 

だがじいちゃんはこの時猫をかぶっていた。

今思えば奇行に走ることなどなかった。

 

  当たり前のように彼女が来るようになり、じいちゃんも会うことが楽しみになっていたようだ。

 

 数年経ち、私たちは結婚した。

ここからがじいちゃんの本領発揮である。

 

 ・漁夫の利

 

結婚し、私たちに子供が授かったと知るとじいちゃんの元気は二割増し(当社比)に増幅された。

 

  まずは貸している田んぼの取り分だ。

 

先に少し米農家の話をしようと思う。

米農家はとにかくキツい。時には家族も総出で行い、時間休も存在しない。

これについては畜産、林業も含まれると思うが、それが元で近隣の米農家は減ってきている。

 

  うちは私がいたが、ある日家に帰るとコンバインも田植機も無くなっていた。

ついでに言うと米の乾燥機もだ。

 

「じいちゃん農機具あらまし無くなってるけど、修理だか?」

「あー、あれみんな売ったわー、もう使えねーし俺もきつくなってきたしな〜」

 

 出ました事後報告、だが これに関してはじいちゃんグッジョブ!と初めて思ったかもしれない。

 

 何故なら子供の時から扱き使われ、馬の代わりに一輪車を引き、育苗(米の苗)に関しては小学校に行く前から水やり、温度調整のためにハウスの一部を開放するなど、量が多い分ハウスもそこそこデカいのだ、朝はゆっくりしたいところだがお駄賃もなく、もただ厳しく言いつけられていた。

「枯れたらのオメの責任だぞ」と。

 

 だから私はじいちゃんに使われるのがとにかく嫌だった。

鼻炎が酷かったので苗床を作る時に出る土ぼこりでくしゃみが止まらず、いつもティッシュとゴミ箱、気を紛らわす為にラジオを置き半泣きでしたものだ。

 

 話を戻すが、問題はここからだった、じいちゃんは田んぼの借り手に取り分を多く出すように、役場で話し合いをする手はずをした。

何故か、妻を付き添いに指定してだ。

 

 私には言わなかった。

これもまたジジスキル【事後報告】、単に私に叱られるという理由で隠すのだ。

 

 

 後で妻から聞いたのだが、自分は耳が遠いから、付き添いが必要だったと。

その時の会話は、

「あのね~、俺のところのコメの取り分をもう5俵増やしてほしいんさね~」

 

「いやいや、それではうちが損してしまうで 、最初の約束で作らせてくれんかね」

 

「美津子、なんて言ってるんだ?」

 

(えぇ~!?私が通訳!?しかも言いにくい事言わせるの?)

妻はその場でじいちゃんを説得し始めたそうだ。

 

「じいちゃん、折角作ってくれてる人にもっと寄こせなんて言うもんでね~よ!」

 

「いや、そうでねーば、おめら(あなた方)の食う分足りのなるがな~」

 

「ちゃんと計算したの?!相手の事も考えて言わねばねーよ!今回の話はなかったことにしなせ!」

 

 どっちが年上かわからない。

 

「んだども…」

 

「んだどもでねー!!いうこと聞けー!!」

 

 「ほっほっほ~、んだが、しょうがね~のー」

 

この一括でようやく彼もいう事を聞いたとか。

 

 私が帰ると、妻からだいぶ愚痴を聞かされた、本当に申し訳なかった。

じいちゃんは妻なら私の様に突っぱねず、聞いてくれると思っていたのだろう。

胎教に悪いのでよしてもらいたい。

 

あんまり大声で叱ると妻にも悪いので静かに喧嘩をした。

 

「じいちゃん、もう俺に全部任してんだろ!だったら余計なことしないで相談せーてば!!いつまで現役のつもりなんだ!?」

 

「いやいや、田んぼはオメに任せておけね、いう事聞けねーならうちから出ていけ!このうちは俺の名義だ」

 

 

 あーあ言っちゃった。

 

「何言ってる!!!この家は俺の名義だ!じいちゃんの名義は土地だろ!だったらうちから出て外で寝れ!」

 

これを言うと即身仏の様に黙った。

 

 この人と、婆ちゃんはいつも「誰のものだ、出ていけ」とよく言っていた。

私はこの物言いを必殺技だと思っていたので滅多なことでは使わなかった。

 

「んん~、それは困ったのぉ~」

 

口を開いたと思ったら、しずかーに部屋へ帰っていくのだった。

 

8へ続く