僕の彼女
朝起きて、彼女の寝顔を見る。
(今日も可愛いな)僕はベッドから出て先に顔を洗う。
何故だろう、彼女はこないだ僕を実家に連れてった、いろんな人たちが寄ってきて煩かったが、彼女の家族なんだろうと思い我慢していた。
「おはよう、先に起きてたんだね、朝ごはん出すから待っててね」
彼女が優しく僕に声をかけてくれる。
お腹は減っているが、僕は男らしく振る舞い、決して彼女を急かしたりしない。
「急がないからいいんだよ」
「うんうん、分かったちょっと待ってね」
何故僕の言葉が伝わらないんだろう…
彼女が仕事に向かい、僕は家で留守番をする。
今日は隣んちのラッキー君に伝わらない理由を聞いてみよう。
「おーい!ラッキーくーん!いるかい?」
ベランダを伝って彼に会いに行く、この家にはベランダに出られる小窓が付いている。
「おはよう、どうしたんだい?なんか必死な顔して」
ラッキー君は隣の家に住んでいて、僕とよく遊びに行く。
ここの先住人だからいろんなことを教えてくれる、きっと彼女とのことも教えてくれるだろう。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ、僕の彼女の事なんだけど、僕の言葉が伝わらないし、こないだは知らない男を連れてきたんだ」
「はっ!?お前何言ってんだよ!伝わる訳ないだろ、俺たち猫だぞ!人とは違うの!」
「えっ!?」
「僕と彼女と何が違うのさ、香子ちゃんは僕の事を大好きだっていつも言ってくれるよ!?」
「痛い奴だな~、彼女お前の言ってること分からないだろ?」
「でも前一緒に住んでたお婆ちゃんは僕のいう事がわかったんだ、なんでだろう?」
「たまにそういう人いるらしいぞ、言葉が分かっるっつーか、何となく感じてるみたいな?」
「それにな、大好きってのはペットとしてだろ!普通猫は猫同士で好きになるもんだろ」
愕然とした、僕は大きな勘違いをしてたんだろうか?
「最近香子ちゃん夜遅いんだ、少しポケっとした感じで嬉しそうな顔して帰ってくるん
だよ、たまに鶏ハムってやつお土産に持ってきてくれるし」
「多分酒飲んでるな、いいな~お土産!遅いってことは男だぞ、機嫌良いんだろ?」
「うん、なんかニコニコしながらラーメンっていうの?その話をよくするんだ」
「ラーメンか、あれはしょっぱいけど美味いぞ、鶏の味が凄いんだ」
ラーメンの話なんてどうでも良かった。
僕は香子ちゃんが僕の事をどう思っているのか気になって仕方なかった。
「良いから、そんな事きにしないでさっ、最近向かいのアパートに可愛い娘が越してきたんだよ!一緒に見に行ってみないか?」
「僕はいいよ、そんな気分じゃないんだ」
そう言って僕は先に帰ることにした。
家出してやる
帰ってみるとまだ香子ちゃんは帰ってなかった。
(どうせ今日も遅いんだろうな)
家に帰ってご飯を食べる。近づくとピピって鳴ってご飯が出てくるんだ。
(今日も遅いのかな、でも前とは違って嬉しそうな顔が増えた気がする)
ちょっと前に、仕事を休んでずっと泣いていた。
いくら慰めても駄目だった、僕は彼女の笑った顔が好きだ。
僕を抱いてくれる時、モフモフしてくるとき、優しい顔になる。
「チョコ大好き、長生きしてね、どっかいっちゃヤダよ」
この言葉にどれくらい愛情を感じただろうか。
でも今日はいつもの僕とは違うんだ、突き止めてやる。
そう思い、僕は家出を決心した。
当てはないんだ、でも何故か香子ちゃんのいる所はわかる気がする。
どのくらい歩いただろう、いつも香子ちゃんは美味しい匂いがする。
あれがラーメンの匂いだろうか、僕は香子ちゃんの実家に行ったときにお婆ちゃんが出してくれたオカカご飯の方が上手いと思う。
魚の匂いのする薄い奴が、お米ってやつの上に沢山載って、混ぜて食べると美味しい味が沢山口の中に広がるんだ。
僕はあれの方がいい。
そういや、お婆ちゃんは香子ちゃんに似ていたな、雰囲気も。
なんか色々考えながら、勘を頼りに歩いていると『フワッ』と鶏の匂いがしてきた。
(これ、ラーメンの匂い!?もしかして)
真っすぐに匂いのする方に向かう、(なんか人がいっぱいいるぞ⁉)
捕まるといけないから草むらに隠れてみる。
「ああ、いい匂いだ。先に彼女を探さないと」
「ん?なんかニャ~って聞こえなかったか?」
「えー?猫ちゃんここら辺に居たっけ?タクちゃん飲み過ぎたんじゃな~い?」
(ヤバい、つい声に出てたか)
そうこうしている内に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「キー君、ここ空いたからお客さん入れるね、どうぞー!お座り下さい!」
「あっ見つけた!香子ちゃん!!」
つい家出したのを忘れて出て行ってしまった…
「なんか、猫の声が聞こえた様な」
「あれ!?チョコじゃない? えっ!?ちょっと待って、どうしたの一体??」
「あれ~、香子ちゃんの猫ちゃんなの?かっわいいー💓」
知らない女の人に捕まってしまった。
どうしよう、怒られてしまう。
「チョコだよね?優ちゃんゴメン、ちょっといい?」
そういうと彼女は凄く驚いた顔で僕を抱きしめた。
「ごめんね、最近遅かったもんね、心配して探しに来てくれたんだよね、嬉しい」
やっぱり香子ちゃんは優しい。
僕の言葉は通じてないけど、気持ちは通じてるんだ。
「どうしたんでさぁ?おっ?猫ですか!あっしも昔飼ってましたよ」
やたら大きい声のおじさんが 近づいてきた。
食べられるんだろうか。
「キーさんおっきい声だからびっくりしてるみたいよ~」
「そうだよ俺みたいに優しい声じゃなきゃ、なっ」
お姉さんと一緒にいる男は悪い人ではなさそうだ。
「香子ちゃんお仕事手伝ってるから終わるまで一緒にまと?キーさんこの子が食べれるものなーい?」
「あっしが好きなやつで良ければ、ほれ!」
「んっ??この匂いは!?まさか」
出されたのは鰹節が沢山のったご飯だった。
「猫といったらこれですぜ!あっしもこれが大好きなんでさ」
「キーさん猫じゃーん」
「それ私の実家でお婆ちゃんが出したやつだよ、チョコあれから大好きになっちゃってさぁ」
周りの事なんてどうでもよくなった、無我夢中で食べていた。
「今度からこの子も連れてくるといいですよ、大人しいじゃないですか」
「キー君ありがとう、優しいね」
「こんばんわ、あら、猫さんですか。可愛いね~」
また知らないおじさんが来た。
何か人のよさそうだけど、今はご飯だ。
「あっ井筒さんいらっしゃい、ごめんなさいうちの猫が心配してきたみたいで」
『ハクハクハク、ハクハクハク』
一心不乱に食べてしまい、気が付くと皆が僕を見ていた。
「良いんですよ、ごらんなさい皆が彼に癒されているじゃないですか」
「よくオスって分かりやしたね?」
「心配して出てくるくらいならオスかな、と、ハハ」
僕は皆が何故見ているのか分からなかったけど、一つだけ分かったのは優しい目だった。
多分大きい声の人が香子ちゃんの好きな人なんだろう。
仕方ない、僕は素直に譲ろう。
だって彼女の笑顔はここで生まれているんだから。
泣かせたら噛みついてやる。
「今度家に来てもいいぞ」
そういうとおじさんは。
「今度遊びに行きやすね」
そう言って片目をパチリとした。