二位ガン 呟く|ω・*)

It's the main blog.

割れた心、切れた思い Ⅱ

 

  痛みはやがて感じなくなった。

何も感じなければさほど辛くはない。

 

失うことに比べたら痛みなど雨に打たれるのと一緒だ。

 

でも傘を差してくれた人がいた。その時痛みに気付いてしまった。

 

 secret

「リカさん、でいいんですよね?」

 

そう、名前を偽っていた。だって怖かった。

きっと彼だって偽ってる。

 

「はい、シュウさんも名前そのままなんですよね」

 

「僕は名前そのまま使っちゃってました、周りにリカって名前の人いなかったんで新鮮ですね」

 

チク…

何かが刺さる。でも今更正直になんて言えない。

既婚者だという事も隠していた。

 

「シュウさんて名前も周りにいませんでしたよ。シュウさんて気遣ってくださる人ですね!」

 

「そうですかね、仲間内ではもうちょっと気を遣え!なんてよく言われますけどね」

 

返信が早い。

鼓動が早くなっている、彼は支度の途中だろうか。

 

「すいません、仕事に行くんでまた後でメールしますね、リカさんも仕事かな?頑張って!」

 

「はい、行ってらっしゃい!気を付けてね~」

 

私は気遣いが足りないのだろうか。夫には労いの言葉一つもかけてもらったことがない。

 

 夫とは友人の紹介で知り合った。

当時の私はまだ20代後半にも拘らず、男性と付き合ったことがなかった。

だから友人も見かねて独身男性を見繕ってくれたのだろう。

 

最初は寡黙な人だなと思っていた。特に面白い事をいう訳でもなく、趣味がある訳でもない。

しいて言えばゲームくらいだろうか。

 

 長男も元気な頃はゲームが大好きで、私も一緒に良くやった。

 

正直私は夫より上手いと思っていたので、一度負かした時に異常なほど怒り、子供が引くほどだったので二度と一緒にやらなくなった。

 

結婚して次々と分かってしまう事実。

夫と体を重ねた時も気持ちが悪かっただけ。

 

(自分で選んだんだから)

 

最初はそう言い聞かせていた。

結局子供ができ、そこに逃げ込むことが出来るようになった。

 

(私は逃げ場を作るために子供を作ったの?)

 

いや違う、あの時夫に押さえつけられなければ、子供は作っていなかったかもしれない。 

 

でも私は子供を愛している。

 

 結婚した後、紹介してくれた友人に相談したことがあった。

謝って欲しい訳じゃない。でも謝られた、違うよ、私は相談に乗ってほしかったの。

 

そこから友人とも疎遠になってしまった。

 

 子供と手を繋ぎ、公園を散歩しながら過去を思い出す。

夕方にも関わらず沢山の人がいる、中には恋人同士だろうか、笑顔で話している。

 

つい思う。あぁ、私にはあんな時間がなかったんだ。

 

「ママ?しゅわりたい」

「そうだね、ちょっと休もうか」

 

息子を抱っこしながら夕暮れを見つめる。

 

(なんて綺麗な夕日なんだろう、まだこんな感じ方が出来たんだ)

 

何時ぶりだろうか、下ばかり見ていたような気がする。

 

 detour

 息子の迎えの後に歩きすぎたようだ、すっかり寝こけている。

 

 (早く夕飯を作らないと)

 

玄関を開けると何かいい匂いがした。

義母が夕飯を作っている?滅多なことじゃ仕事をしないのに。

 

「ただ今帰りました。お義母さんすいません作らせちゃって」

 

「いいのよ、たまに私がやらないと腕も鈍るしね」

 

良かった怒ってない。

 

「あんたの作る料理は息子の体を考えてないから、あんな食事ばっかり毎日続いたら死ぬよ?うちの子殺す気?」

 

その瞬間、何かが弾けた音がした。

 

嫁いでからというもの、子供が好きなもの、野菜も多く取れるようにと色々考えて作っていた。

今までも嫌味を散々言われてきたが、「殺す気?」まで言われたことがない。

 

「すいません、これでも頑張って作っているんです」

 

自然と拳を握る

 

「あら、なんなのその言い方。今日は反抗的ね、何その目は?」

 

無意識だった。

 

「うるさい!」

 

 気付くと家を出て走っていた。

何処に行く当てもない、実家に行っても母親は話を聞いてくれるか分からない。

 

息が上がり、我に返った時、日はすっかり暮れていた。

足が痛い、何故か靴を持ったまま裸足で走っていた。

 

「ハ、ハ、ハ、私何やってんの、生きている意味なんてない」

 

プルルルル、プルルルル

携帯が鳴る、ポケットに入れたままだったことに気付く。開くと夫の番号、それを見ると同時に寒気がした。

 

「こんなもの要らない!」

 

投げつけようとした瞬間、彼の存在がよぎった。

(あっ、)

そして息子の笑顔が頭に浮かぶ。

(私はどうしたらいいの…?何が正解なの)

 

涙が止まらない、もう帰りたくない。

辛さがカナの心を引き裂き、締め付ける。

 

At that time

「お疲れ様でーす!とりあえずこんなもんで先に上がりますよ!」

(遅くなったな、リカさんどうしてるだろう)

 

 シュウはようやく大きな仕事を任されるようになり、部下もついていた。

以前の状況ならもっとメールも出来ただろうが、昼間は中々時間が取れない。

 

こんな状況なので時間が取れず、前の彼女にもフラれてしまった。

 

「別れて下さい、もうやめにしよ?」

 

「なんで?最近あまり時間作れないのは謝るよ、もう少しすれば今の仕事も任せられるようになるからさ」

 

「もういいの、待つのって結構辛いんだなって思っちゃった。きっと私の我が儘だよ、シュウ君のせいじゃない」

 

「もう気持ちはないってこと?」

 

「好きだったよ、今も好き。でも待てないの、ホントにごめん、ごめんね」

彼女は泣きながら謝っていた。

 

彼女とは仕事の営業先で知り合い、何度か仕事のやり取りをする中で食事に行くようになり、告った時も笑顔で喜んでくれた。

 

僕といると楽しいと言ってくれた人。

 

だけど仕事が忙しくなり、会う時間がほとんどなくなると、たまに会う彼女には笑顔が少なくなっていた。

 

  仕事はきついが、やりがいがある。

フラれた時はかなり落ち込んだ、本気で好きになれた大事な人、だった。

でも気持ちだけではどうにもならないのだと、その時理解した。

 

 

 シュウは割と郊外に住んでいるが、駅から遠いので車での通勤をしている。

夜運転していると、未だに彼女との事を思い出してしまう。

もうどうしようもない、時間が解決してくれる。そう言い聞かせ夕飯を買って帰る。

 

 アパートに帰っても一人でいると思い出す。だからサイトに登録してみた。

話し相手が出来たら違うのかな。そんな軽い気持ちで。

 

「お疲れ様です。今日はどうしてました?僕は今やっと仕事終わりです」

 

メールを送った後シャワーを浴び、30分程してから夕飯にありつく。

 

(あれ?返事来ないな)

 

もう終わったのだろうか。メールも殆どしないうちに嫌われたのかと心配になる。

(こんなに弱かったか?)

 

仕方ない、ビールでも飲んでさっさと寝よう。明日またメールしてみよう。

返してくれるかもしれない。

 

いつの間にか時計は一時を回っていた。

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

PVアクセスランキング にほんブログ村