二位ガン 呟く|ω・*)

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三番目の男 5

  じいちゃんは毎年夏になっても毛布をかけて寝ていた。

減量前のボクサーよろしく、部屋も締め切っているのだ。

私や妻が見つけては「じいちゃん!なんでそんなに掛けて寝てるの!?熱中症で死んでしまうよ!!」と言い毛布を剥がす。

 

「んだがのぉ〜?寒いかとおもたんだが」

 

その割には毛布を掛けた状態で、扇風機を全開でかけているのだ、意味がわからない。

 

んだ、とは「そうだ」の意でそうかな〜?と言う意味である。

 

「じいちゃんは寒いと言うのに、なんで扇風機かけてるの?」と妻が聞くと

 

「いや〜なんだかあっちぇなーど思ってさ〜」

 

  このやり取りも2年続くと妻は慣れてしまっていた。

 

 嫁に入った当初、あまりに奇行が多く、まともな家庭に育った彼女は出ていこうとしたこともあった。

 

話は戻るが、じいちゃんに薄手のタオルケットを掛けて「どうだ〜?寒くねーろ〜?」と聞くと。

 

「んだのぉ〜、丁度よ〜なったわ〜」

 

結局なんだったんだと毎度不思議に思ったものだ。

 

こんな事をしているものだから結果夏バテになり、真顔で「俺は後2.3年しか生きられね〜わ」と同情を買うような事を毎年必ず言う。

 

  

  何故「今年は持たない」では無いのだろう?

兎に角、夏バテ如きで死なれてはこっちの寝覚めが悪い、2人して何か食欲の出るものを考えた。

 

妻は栄養士の資格をもっており、以前介護施設の食事も作っていたのでそういった事は得意だった。

 

  大抵施設ではオカズを刻んで食べさせるのだが、それを嫌がるので素麺と天麩羅を揚げる。

 

妻の天麩羅は私もじいちゃんも好きだ。

小麦粉にベーキングパウダーを少し混ぜるので、外はサクサクになる。

 

揚げ方も絶妙で野菜の甘みが良く出て美味い。

 

大体は、素麺と天麩羅を食べさせ始めると復活し始めるのだ。

 

そして感想。

 

「おっかねうんめんだのぉ〜」

(とっても美味い)

 

  毎回食べたことの無いような言い方で言う。

 

  ちょっと面白い。

 

  妻は呆れながらもほっとした顔で「じいちゃん、あんまおかしな事しないで、うちらに言ってよ!」といつも面倒なじいちゃんの相手をしてくれる。

 

  夏の彼はそこから元気になり、元気になると途端にいい気になり始める。

 

畑のシーズンだ。

 

私も時折手伝ったが、飽きもせず家の前の畑でせっせと草をむしり、石を取ったりとこまめにやっている…

 

様に見えていたのだが、拾った石を反対の畑に投げるものだから反対側が石だらけになる。

 

無駄無駄無駄ムダー。

 

これに気づいた時、野菜の出来が悪い事と理由が直結した。

 

  肥料は鶏糞をあげるのでやたら大きくなるのだが、大根、サツマイモ、人参、根菜系の節くれだつのが凄く目立つ。

 

適当に投げた石の所をトラクターで耕して混ぜるから中に石が入り、野菜はそれを避けて大きくなるのだ。

 

  あれには手を焼いた。

メチャクチャ凹みが多いので、料理する時も食べる所を切り分けるのが大変なのだ。

 

「よー出来たろ〜?」と言われる度に

 

「あんな節くれだらけの野菜では食べる所すくないよ」というのだが彼は認めない。

 

自分で料理をした事が無いから苦労が分からないのだ。

 

しかも味音痴。

 

  以前妻とこんなやり取りをしていた。

回転寿司屋に行った時のことである。

 

「じいちゃん食べないの?」

イナリを2皿食べたら手を振り、あと要らないとジェスチャーをする彼。

 

「やっぱり米はコシヒカリでなきゃダメだ〜、安いとこではこんなもんだわな」

 

これには私もカチンときたが、妻が先に口を開いた。

 

「生の鶏肉と刺身の区別も付かない人に言われたくねーわ!食通ぶってんな!」

 

あー、そんな事あったな〜。

 

  思わず笑った。

歯がないくせに生の鶏肉をペロリと飲み込んだのだから、蛇さながらだ。

 

「んだ事あったがのぉー、ホッホッホ〜」

 

この言い方がカチンと来るのだそうだ。

小馬鹿にしたようなホッホッホ〜に妻は食いつく。

 

「文句ばっか言ってないでもっと食べれ!」

 

私は妻のお陰もあるが、このじいちゃんに慣れてしまっているので変な事言ってくるとスルーするようになっていた。

 

  多分じいちゃんは妻が大好きだったと思う。

どんな馬鹿なことをしても面倒を見てくれる、相手をしてくれる。

感謝してもし足りない。

 

そんな妻も実家に帰ろうとした事件があった。

 

  汚い話で申し訳ないが、【キッチンでオシッコしてる疑惑】が浮上したのだ。

 

あれは息子が産まれて間もない頃だ。

 

妻は仕事を辞めて暫く育児に専念することにした。

そこから数ヶ月後。

 

「なんかさ〜、じいちゃん私が居ない時にキッチンでなんかしてるみたいなんさね〜」

 

「なんかって?腹減って食べてるとか?」

 

「そんなんなら何も言わないけど、なんかキッチンの排水溝から異様な臭い匂いするんよ」

 

えっ?     まさか。

 

そう、それなんですよ旦那。

 

  疑惑の後、妻は1つ仕掛けをした。

茶の間からキッチンに入る時のドアノブに紐をつけ簡単に入れないようにテーブルに括りつけておいたのだ。

 

  妻が買い物に出かけ、帰ってくるとキッチンの照明が付いていたそうだ。

そして耳が遠いじいちゃんは車の音に気付かないのでそおっとそおっと家に入り、キッチンを除くと。

 

 

 

味噌汁のお椀にオシッコをしているじいちゃんを見つけ、現行犯で逮捕した。

 

 

  帰ってからその話を聞いて、「まさか、俺そのお椀で味噌汁飲んでねーよな!?!?」

 

あの時はマジで焦った、吐きそうだった。

 

当然妻は激怒、仁王様の降誕である。

 

「じいちゃん、なんでトイレ行かないの!?部屋からもそうだけどじいちゃん1番近いよね!?」

 

問い詰めると婿スキルが発動した。

 

〘 聴こえてません〙である。

 

  このスキルは使い方を間違えた。婆ちゃんの時は罵声を浴びせられたりで使ったのだろうが、妻の場合は何にも悪くない。

 

なんか私なりにビンビン危機感を感じていた。

「嘘つかなきゃいーけど」

 

案の定

「おら、オシッコなんかしてねーぜ〜」

 

目が泳いでいた。

 

 バタフライ並である。


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  多分、私もじいちゃんも立場は違えど同じような危機感が出てきてたと思う。

 

「私ちゃんと見たんだよ!なんで嘘つくの!?ご飯食べる所でご飯の器だよ!皆が食事するんだよ!!」

 

とってもおっかなかった。

 

じいちゃんは認めず、妻の熱も冷めず、私に一言こう言った。

 

「私、子供連れて暫く実家に帰っていい?」

 

出ていった事を反省させるしかないかなと思い

 

「分かった、申し訳ないな、素直に謝ればいいんだけど」と返しその夜は床に着いた。

 

翌日彼女は息子を連れて出てしまうのかと思うと

 

「ヤバイヤバイヤバイ、もう帰ってこないんじゃないか!?」あまりに考え込んでたら眠れなかった。

 

翌日彼女はこう言った。

 

「やっぱり残る、なんかじいちゃんに負けてるみたいだから」

 

貴女は女神様です。

 

泣いて喜んだ。

 

6へ続く。

 

 

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